幼い頃、色々なことがあった。
色々なことがあって、なにかが怖くなる度に、兄の傍へといっていたのを覚えてる。
そこだけは安全で、安心できると。
勘違いしていたから。
―――けれど、気づいたのはいつだろう。
この人もきっと怖いものだと、いつからか。
違う。この人が怖いというより、怖いのは。
怖いのは、いつか、おいていかれることだと。
「兄貴」
「なんだ?」
「…なんでもないけど。よんでみたかっただけ」
「…なんだ今更。そんなかわいらしいことを」
「あんたに可愛いっていわれてもねえ」
「んな嫌な顔することないだろ。…まあどうでもいい。なんだ。別に呼ばずともいくらでも傍にいればいいだろう」
「…あっそ」
ねえ兄貴。
ねえお兄ちゃん。
あなたに言えないことがあって、あなたに聞けないことがある。
何か危ういことがあって、あたしを切り捨てることでそれが解決できるなら。
あなたはいくらでもあたしを切り捨てるのでしょうと。
切り捨てた後、きっと泣いてくれるのかもしれないけど。
決して一緒に沈んではいかないし、そもそも先にあなたがどこかへ沈むと。
ずっと昔に気づいていて、だからあたしは強くなろう。
あなたにその決断をさせないように。―――なによりも、あなたがひとりで、沈まぬように。
足蹴にしたり文句いったり馬鹿馬鹿言ってるのに傍にいる。
他に居場所はないと思っているから。
あの話にしては病んでいない方だけどなんだかんだで色々度をこしたブラコンな明乃さん。
だからいくら何人と付き合っても紅也は気にしていない。
どう考えても最大の障害が武行だから。
