昔々ある貧しい村に。
とても美しい娘がいました。
雪の様にきらきらと輝く髪と、宝石のような瞳。
その地方には稀な見た目を持って生まれた彼女はある時はかわいがられましたし、ある時は疎ましがられました。
彼女の住む村が飢饉に襲われた時は、お金にされました。
美しい彼女は、それから色々なところへ行きました。
肌の色も言葉も違う人達の間を、時に愛され時に嫌われ渡り歩いていきました。
色々なことをしましたし、色々なことを見ました。
そうして彼女が、品物として扱われるのに慣れ切った頃。
ある一人の青年に会いました。
ある青年は、人をお金に変える商売を営んでいました。
人をモノに変える商売も人を化け物に変える商売なども営んでおりました。
一言でいえば、彼に会うような人生をおくっている時点で、美しい娘は非常に不幸だったといえます。
けれど自分を不幸と思わない彼女は、それが当たり前だった彼女は、新しい雇い主―――もっというなら飼い主に、にこりと微笑みました。
いつもにやにやと笑っている青年は、ひどく楽しそうに笑みを深めました。
その表情に、彼女はゾクリとしたものを感じました。
それは恋ではなく。愛ではなく。
―――いうならば運命だったと、彼女は今も思っています。
その後、彼女が他の人の手に渡ることはありませんでした。
好きでも嫌いでもない彼から、ぜひ妻にと望まれたからです。
愛の言葉を聞いたことも、優しくされたことも特にありませんが。
時たま二人ですごす時間を、彼女はそこそこに愛していたかもしれません。
けれど彼女のお腹が柔らかく膨れたころ。
その中に小さな命が生まれたころ。
彼女は強く思いました。
生まれて初めて、望みができました。
どうかこの子は。
あの人やわたしのような人生を、歩まぬように。
人が金でもモノでもない世界で、どうか。
それがかなわないなら二人で死のう。
そんな風に思って、彼女は生まれた娘を抱えて逃げ出しました。
たくさんの人を死なせて、不幸にして、踏みにじって。
自分と娘が死んだことにして、逃げ出しました。
それから彼女は数年間、とても穏やかに過ごして。
―――逃げきれずに夫と再会した時、死を選ぶことはしませんでした。
「薄汚れるくらいなら死ぬ。そんな潔さがあるなら何回死んでも足りないだろう。お前」
「……そうですね」
「別に貶しててないがな。いざとなれば死ぬのも殺すのも怖い。
…そういう女じゃなきゃ私に会う前に死んでしまっただろうから」
「……そうですね」
「その方がよかったか?」
「……知らないわ」
「あの子はどちらだろうな」
「……わからないの」
顔を覆って俯く彼女は、ぼんやりと思っています。
愛しているのに。
大事なのに。
どうしてわたしは、あの子があんなに怖いのかと。
たまに会う時、朗らかに笑うあの子の目を見れなくなったのはいつからだと。
娘とよく似た表情で、娘がよく似た表情で笑う男の傍で、ぼんやりとそうして後悔しています。
美しい夢を見た美しくて無力な人のお話。人生流され放題。でも生き抜く程度にはちゃんと頑張った人の話。
そして母親を守るために色々してみたらびびられた可愛そうな聖那のお話。
でも母親はびびってるだけで割と今も愛している。旦那のことは…普通。好き寄りの普通。
びびられた聖那も割と普通に母親のことは愛してる。父親は路上のゴミだと思ってる。
旦那は妻のことはそこそこに愛してる。ただ辞書に愛してるの文字がなかったためことばにする発想はない。娘は…普通。多少好き寄りの普通。
