物心ついた頃から、大きな屋敷につれていかれた。
その屋敷には、いつも。ひどくぼんやりとした眼差しの、次期族長がいた。
つまらなそうな顔をするそのひとが、私は好きではない。
好きではないが、彼にまつわる諸々の権力は。
たぶん、愛すべきものなのだろう。
だから、嫁にと求められた時、笑って頷いた。
物心ついた頃から、誰もが求めていた地位を、手に入れた。
「ねえ、私、知っていますわ。
あなたが私を選んだ理由」
だから私は満足で。
けれどこの人は満足ではないのだろう。
「…そうか。なんだと思う?」
言う私に少しだけおかしそうに笑うこの人は、でもいつも満たされない。
哀れだと、そう思う。
「あの方が大切なのでしょう」
大事な大事なあの方とそうことの叶わないこのひとは、きっと。
いつまでたっても満足しないし、つまらないのだろう。
「あの方をいじめて追い出すような方は困るから、私だったのでしょう」
笑いながら聞く私に、もうすぐ夫になる男は、黙って笑い、何も言わない。
「…好きな方にはもう少し優しくすればよろしいのに」
少し突っ込んでみても、表情は変わらず。
ああやはりつまらない顔をする人だと、そう思った。
仮面夫婦というか、情のない夫婦。もはや清々しい。母が父を選んだのは権力目当てです。父が母を選んだのはまあ藍さんが大事に思っていたひとだからです。で、後で嫌がらせするために妻づきにしたと。…普通に生まれていても鈴は藍が育ててそうだなあ。そして懐いたらどうせ酷い目にあいそうだなあ。どうあがいても泥沼だなあ。
そんな泥沼にはまる前に自分の世界の引っ込んだと言う意味では案がい賢かったお母さんの名前は琳子。読みはりんこ。生まれながらにお姫様。ナチュナルに上から目線。自覚なんてないけどプライドエベレスト。
優しい人ではあります。正しい人です。でも正しいことが正しく捉えられないところに生まれた所為で色々と歪んだひとでもありますが。
旦那は妻にはそれなりに紳士でそれなりに優しかったでしょう。目は常に死んでいますが。デフォだし。どうでもいいものに優しく大事なものにひどい男略してただの駄目人間宗形。自分を憐れむ妻を「…見たいものだけ見て馬鹿な女」と思っていたのでしょう。
…娘が子の両親に育てられなかったことは、まあ理由はともあれ結果的に幸せだった気がしなくもない。

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