凡庸に、なにもなせぬまま死ぬのが嫌だった。
特別な人間になりたくて、ずっと頑張った。
頑張っても無駄だと悟ったその頃、あの男に会って。
普通の幸福とやらに身を浸してみて、えたものは嫌悪だけだったから。
「――…あなた、もう少し、騒ぐかと思ったのに」
だから、あの男の元を離れようとした時、彼は笑った。
「―――別に」
初めて会ったころからちっとも変わらない、毒気のない笑顔で。
毒気も、なにもない、薄っぺらい笑顔で。
「気持ちが離れても。お前が私にくれたものが、なくなるわけではない」
ああそんなんだから。
あなたのこと、ずっと、嫌いだったわよ。
…だから。
だから。もしも。
もしもあなたが死んでも。
「………涙なんて、流さないと」
思っていたのにね。
相崎母はばっちり存命です。ちゃんと天寿を全うしそうだなあ。こんなん言ってるけど旦那のことはそこそこに好きだったし、息子のこともいまも大事なひとな気がします。間違いなく親らしいことをしなかったけれど。というか、誰かと一緒にいるのがむかないけれど。強いて言うなら自分が一番大事だから。
相崎父はわりかし普通の感性で普通にいい人に近いんじゃないでしょうか。見返りは求めないから迷惑がられても好き勝手に親切にしたりしなかったり。大して好かれていないけれど好いてみたり愛してみたりプロポーズしてみたり。
他人のことを思いやっているようで実は自分が好きなことしているだけ気質は子供たちにばっちり受け継がれました。まあ、ずっと一緒にいた親子ですから。似るのも当たり前ですよね。
……あんまり怒らないひとだけど長男がいつ死ぬか分からない仕事につこうとした時だけは本気で怒った人。だって心配すぎて、そうするしかなかったから。
晩年というには若すぎる晩年はそれなりに優しい気持ちで眺めていたと思うんですけどね。時がたてばちゃんと和解してたと思うんですけどね。
ごめんもありがとうも言えないまま別れたままの長男は、どっかでそれを気にかけ続けています。気を病んでいるともいう。

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