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羨望

「たまにね、ふ、と思う」
 たまに、彼女はふっとそんな話題をふる。
「私はメー君が大好き。メー君も、好きと言ってくれた」
 背中を見せたまま、寂しげな声で言う。
「2人でいると幸せで。それだけでいいと思うのに、触るともっと幸せで―――」
 惚気めいた言葉を、切なげに紡ぐ。
「…触ると、触れると。幸せだけど、ほんの少し、怖くなる」
 その心を、僕は知らない。
 別に、知りたいとは思わない。…今は。
「私が彼を好きになったのは、メイベルドーだからかもしれない。
 彼が私を好きになったのは、リュコラだからかもしれない」
「だとしても、『磨智』は貴女だけだと。
 臆面もなく言うでしょう、あれなら」
「そうだね、言う言う。言われた。…でもさ。たまに、すごく怖くなる」
 おちゃらけた声は、すぐに低くなる。
「強い子を生めるを求めて一緒になったのかもしれない。
 そういう意志で、わたしの意思などかすんでいるかもしれない」
 低く、悲しげで。
 どこか楽しそうに、なる。
「だから私は彼がへたれでも安心するのかもね。あんなにわたわたするんだから、少なくとも。…少なくとも、彼は色欲に目がくらんだわけじゃない、ってさ。
 だから気長く待っているのかもね―――なにかが覚めるのが怖いから」
 ねえ、風矢君。
 独自めいた呟きを繰り返す彼女は、そうやって僕を呼んで。
「私は君がうらやましいよ」
「…そうですか」
「次の世代の可能性なんて、関係ないような恋をした君が。
 羨ましい」

「…強い遺伝子というなら、彼女の方が、大概ですよ」
「そうだね。でも、思う」
「ないものねだりですよ」
「ないものねだりだよ」

「どうしよもないことですね」
「そうだね、仕方ない恋だね」


 意味のない羨望の話。
 

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